「最近うちの子、食欲がなくてちょっと元気もないんだけど…」と感じながらも、様子を見てしまっていませんか。猫の膵炎は症状が非常にあいまいで、気づかれないまま慢性化しやすい病気です。この記事では、猫の膵炎の症状・原因・診断・治療を順に解説します。受診すべきかどうかの判断にも役立ててください。
猫の膵炎とはどんな病気か
犬と大きく異なる「慢性型が主体」という特徴
膵炎とは、消化酵素を分泌する膵臓に炎症が起きる病気です。犬では急性・重症型が多いのに対し、猫では慢性膵炎が主体とされています(WSAVAガイドライン)。慢性型は数週間から数か月にわたって軽度〜中等度の症状が続き、飼い主が「年のせいかな」と見過ごしてしまうケースが典型的です。急性型も起こりますが、犬のような激しい腹痛や黄疸は猫では比較的まれです。
「トライアダイティス」—— 他の臓器の病気と同時に発症しやすい
猫の膵炎には重要な特徴があります。膵炎単独で起きるのではなく、胆管肝炎と炎症性腸疾患を同時に発症する「Triaditis(三臓器炎)」が多く見られます。膵炎の猫では他の消化器・肝胆道系疾患を同時に抱えていることが少なくなく、膵炎が疑われる場合は総合的な検査が必要です。
見逃しやすい症状:こんな状態が続いていたら要注意
猫の膵炎で見られる主な症状
猫の膵炎は「なんとなく元気がない」状態で来院するケースが最も多いとされています。主な症状は以下のとおりです。
- 食欲不振(最も多く見られる症状)
- 嘔吐(繰り返す場合は特に注意)
- 元気消失・活動量の低下
- 体重減少
- 脱水(皮膚をつまんで戻りが遅い)
犬の膵炎でよく知られる「前足を伸ばして腰を高く上げる祈りのポーズ」や強い腹痛反応は、猫では見られないことがほとんどです。発熱や腹部触診での疼痛反応が明確でないケースも多く、症状だけで膵炎と断定することはできません。
受診の目安:こんな状態が続いたら動物病院へ
以下のいずれかが続く場合は、自己判断せず獣医師に相談してください。特に、ほとんど食べない状態が1日以上続くときは、猫では脂肪肝のリスクがあるため早めに受診してください。
- いつもより食事量が明らかに減っている、または食べない
- 嘔吐が1日2回以上、または2日連続で起きている
- じっとしていることが増え、呼んでも反応が薄い
- 体重が短期間で減っている(1〜2週間で200g以上など)
これらの症状は膵炎以外の病気でも現れます。確定診断には必ず血液検査と超音波検査が必要であり、自己判断で対処することには限界があります。
猫の膵炎の原因
原因の大半は「特発性」——明確な誘因が見つからないケースが多い
猫の膵炎は原因不明(特発性)が大半を占めます。犬の膵炎では高脂肪食が主要なトリガーとして知られていますが、猫では食事との関連は弱いとされています。現時点で報告されている誘因は以下のとおりです。
- 感染症:トキソプラズマ、FIP(猫伝染性腹膜炎)関連ウイルスなど
- 薬剤:有機リン系農薬、一部の抗生物質など
- 外傷:交通事故や高所からの落下など腹部への強い衝撃
- 肥満・高脂血症
肥満は管理できるリスク因子
誘因のなかで飼い主が対処できる要素として、肥満があります。過体重の猫は高脂血症になりやすく、膵臓への負担が増すと考えられています。体重管理と定期的な健康診断は予防の観点からも有効です。ただし、食事だけで膵炎を「治す」ことはできないため、症状が出た場合は必ず受診してください。
診断と治療:fPLI検査と早期の栄養サポートが鍵
なぜ従来の血液検査では不十分なのか
膵炎の診断によく使われてきた血清リパーゼ・アミラーゼ検査は、猫の膵炎に対する診断精度が低いことがわかっています。現在の標準的な診断には、fPLI(猫膵特異的リパーゼ)測定が推奨されています。血中fPLIの値が高いほど膵炎の可能性が高くなりますが、判定基準は検査機関によって異なるため、結果は獣医師に確認してください。超音波検査と組み合わせることで、診断の精度がさらに高まります。
治療は対症療法が中心——絶食の長期化に注意
現時点で膵炎を根治する薬はなく、治療の主体は対症療法です。具体的には以下が行われます。
- 輸液療法:脱水の補正と循環維持
- 制吐剤:嘔吐のコントロール
- 鎮痛剤:腹部不快感・疼痛の緩和
- 栄養サポート:経腸栄養または自発採食の促進
特に注意が必要なのは栄養管理です。猫は絶食が長引くと肝脂肪症(脂肪肝)を併発するリスクがあるため、早期の栄養補給が重要とされています。自宅での絶食による「胃を休ませる」対応は、猫では逆効果になる可能性があります。
まとめ
- 猫の膵炎は慢性型が主体で、症状があいまいなため気づかれにくい病気
- 主な症状は食欲不振・嘔吐・元気消失・体重減少・脱水で、犬のような激しい腹痛は少ない
- 膵炎と胆管肝炎・炎症性腸疾患が同時に起きる「トライアダイティス」に注意が必要
- 確定診断にはfPLI(猫膵特異的リパーゼ)検査と超音波検査の組み合わせが有効(数値の判断は獣医師が行う)
- 治療は輸液・制吐・鎮痛・栄養サポートの対症療法が中心。絶食の長期化は脂肪肝のリスクがある
- 食欲不振や嘔吐が続く場合は、自己判断せず獣医師の診断・処方を受けることが重要
参考情報源:WSAVA Gastrointestinal Standardization Group Guidelines / IDEXX fPLI Reference Intervals
※この記事は一般的な情報です。気になる症状があるときは、早めに動物病院を受診してください。

