「突然猫が倒れてけいれんしている」——そんな場面に直面したとき、飼い主はパニックになりがちです。この記事では、今すぐ取るべき行動・絶対にしてはいけないこと・病院に行くタイミングを具体的にお伝えします。
発作中に「絶対やってはいけない」3つの行動
発作が起きると反射的に猫を助けようとしますが、善意の行動が猫を傷つけることがあります。以下の3点は必ず避けてください。
NG行動1:口の中に手や物を入れない
「舌を噛むかもしれない」と心配する飼い主は多いですが、発作中の猫が舌を噛んで窒息するケースはほとんど報告されていません。一方で、発作中の強い咬合反射により指に重傷を負う危険性が高く、猫にとっても異物による誤嚥・窒息リスクが生じます。口への介入は避けてください。
NG行動2:体を強く押さえつけない
けいれん中に全力で体を固定しようとすると、筋肉が激しく収縮している状態に抵抗力が加わり、骨折や筋断裂を引き起こすリスクがあります。猫が転落や衝突で怪我をしないよう周囲の危険物を除くことが最優先であり、体を押さえることではありません。
NG行動3:大声で呼びかけない
光・音・触覚などの刺激が発作に影響することがあると考えられています。名前を呼んだり大きな声を出したりすることは控え、部屋を薄暗くして静かに見守るのが正しい対応です。
発作中に飼い主がすべき正しい行動
パニックを抑えたうえで、以下の順番で対応してください。
ステップ1:周囲を安全にして静かに見守る
テーブルの端・階段・熱いストーブなど転落・衝突・熱傷の危険になるものを素早く遠ざけ、猫の近くに毛布や柔らかいものを置いて体を保護します。照明を落とし、テレビや音楽を消して刺激を最小化してください。猫を動かす必要がある場合は、タオルなどで体をやさしく包むようにします。
ステップ2:スマートフォンで動画を撮影する
獣医師が「焦点発作(脳の一部が異常活動)」か「全般発作(脳全体)」かを判断するために、発作の映像は最重要の診断材料になります。ビデオ記録は診察時に役立ちます。短い映像でも診断の助けになります。撮影しながら時計も確認し、発作が始まった時刻と終わった時刻をメモしてください。
ステップ3:発作後の状態(ポスティカル)を観察する
発作が自然に治まった後、猫は「ポスティカル(postictal period:発作後状態)」と呼ばれる回復期に入ります。一時的な視力障害・ふらつき・過度の鳴き声・異常な食欲増加などが数分から数時間続くことがあります。この段階で「治った」と判断して受診を見送るのは危険です。脳内では異常な電気活動が継続している場合があるため、必ずかかりつけ医に連絡してください。
病院に行くべきタイミング:時間と回数で判断する
「様子を見る」か「すぐ病院へ行く」かの判断は、発作の持続時間と頻度で決まります。
5分以上続いたら即座に救急受診
発作が5分以上止まらない状態や、意識が戻らないまま発作を繰り返す状態を「てんかん重積状態(Status Epilepticus)」と呼び、脳へのダメージや命の危険を伴う緊急事態です。また、短時間に発作が何度も起こる(群発する)場合も緊急性が高いので、すぐ受診してください。5分を超えた時点でためらわず動物救急に向かってください。移動中も猫を暗くした箱やキャリーに入れ、刺激を最小化します。
初めての発作は早めに必ず受診
たとえ発作が2〜3分で自然に治まったとしても、初回発作は必ず精査が必要です。猫のてんかんは犬と異なり、「特発性てんかん(原因不明)」よりも「症候性てんかん(脳腫瘍・ウイルス感染症・中毒・低血糖などの基礎疾患が原因)」の割合が高いことが報告されています。原因を特定せずに経過観察を続けると、治療可能な基礎疾患を見逃す危険があります。発作後はできるだけ早く(遅くとも翌日までに)動物病院を受診し、原因を調べるための検査について相談してください。
繰り返す発作・抗てんかん薬の使用中は定期モニタリングを
抗てんかん薬による治療では、薬の種類や量の選択、投薬開始後の血液検査などによる経過観察が必要です。薬は猫の体重・臓器の状態・発作の頻度に合わせて獣医師が決めるものです。人用の薬を猫に与えたり、自己判断で薬の量や種類を変えたりしないでください。詳しくは動物病院で相談してください。
てんかんとはどんな病気か:飼い主が知っておくべき基礎知識
特発性てんかんと症候性てんかんの違い
猫のてんかん発作は大きく2種類に分類されます。特発性てんかんは脳の構造的異常や代謝異常が見つからない「真性てんかん」で、遺伝的素因が関与すると考えられています。一方、症候性てんかんは脳腫瘍・猫伝染性腹膜炎(FIP)・トキソプラズマ症・鉛中毒・低血糖・肝性脳症などの基礎疾患が引き金になります。猫では症候性の割合が高いため、初回発作で「てんかんと診断されたから薬だけ飲めばいい」とはならず、原因の精査が治療の第一歩です。
発作の「型」を知っておくと診察に役立つ
発作には顔面・四肢の一部だけが動く焦点発作と、全身がけいれんする全般発作(強直間代発作)があります。焦点発作は「片方の顔が引きつる」「一本の足だけがバタバタする」など局所的な症状から始まることが多く、見逃されやすいです。どの部位からどのような動きが始まったかを撮影・メモしておくと、神経科獣医師が病変部位を特定する手がかりになります。
まとめ:猫の発作時に覚えておくべき5つのポイント
- 口に手を入れない・体を強く押さえない・大声を出さない——この3つのNG行動が最優先の知識
- 発作が起きたら周囲を安全にして部屋を暗く静かにし、スマートフォンで動画を撮影する
- 5分以上続く発作・意識が戻らないまま繰り返す発作・短時間に群発する発作は緊急事態。直ちに救急受診する
- 発作が治まってもポスティカル(発作後状態)が数時間続くことがあり、「治った」と誤判断しない
- 初回発作は早めに必ず受診し、症候性てんかん(基礎疾患)の除外検査を受ける
猫のてんかん発作は、正しい知識があれば飼い主が冷静に対応できます。この記事をブックマークしておき、万が一の際にすぐ参照できるようにしておいてください。治療方針や薬の選択は必ずかかりつけ獣医師と相談のうえ決定してください。
【参考】Bhatti SF et al. “International Veterinary Epilepsy Task Force consensus proposals: medical treatment of canine and feline epilepsy.” BMC Veterinary Research, 2015.
※この記事は一般的な情報です。気になる症状があるときは、早めに動物病院を受診してください。

